「津波だ」と叫び走る職人
どんな伝承か
白木屋の前で人々が立ちすくんでいたところへ、海運橋の方角から自転車に乗った職人ふうの若い男が矢のように走り込んできて、津波だ、津波だ、と夢中で叫びながら通り過ぎた。海までは二キロほど、運河も縦横に走る日本橋の真ん中である。海水が逆流してくるかもしれないという恐怖に、著者は医師たちを置き去りにして自分の乗ってきた円タクを探し回った。車はあっても運転手の姿がない。揺り返しのたびに足をさらわれ、線路の上で何度も転んだ。あの辺りは地盤が悪く、揺れ幅は六寸を超えていたらしい。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
私の心霊術(長田幹彦・1955年(昭和30年))
『私の心霊術』は、長田幹彦が昭和三十年に著した心霊研究の随筆集である。死後に残る霊や地獄・極楽をめぐる考えを述べ、熊本の家系や安達謙蔵との交わり、東京放送局の文芸顧問だったころの回想、霊友会など戦後の新興宗教への批判、前著『霊界』への反響と自らの信仰を語る。「心霊科学の来世観」「霊界の構造」「ぼくの信仰」などの章からなり、末章「ある霊媒の生態」では霊媒服部との実験とそのトリックの顛末を描く。