居間に二人並んで寝ていた藤助
どんな伝承か
平田篤胤の『稲生物怪録』は、稲生屋敷に化け物が続いたころの出来事として、松尾藤助の家での怪を伝えている。藤助が居間で昼寝をしていたとき、用事で入った召使が見ると、主人が二人並んで横になっていた。不思議にも恐ろしくもなって、そっと次の間へ下がって声をかけると、藤助は何事もなかったようにいつもどおり起きてきた。その後もたびたび、奥にも藤助がいるのに外にも藤助がいるということが起こり、藤助自身もどこか正気を失っていくように見えたという。著者はこれを稲生の怪の中でもっとも無気味なものとする。
原典より
不思議にも又おそろしくて、そつと次の間へ出て呼び起しければ、何事なく常の通り起いでたり。—— 日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路)
『日本の幽霊たち――怨念の系譜』は、阿部正路が書きおろした日本文学の幽霊論で、刊行は日貿出版社が手がけた。『竹取物語』『源氏物語』『平家物語』などの物語、『日本霊異記』から『遠野物語』『聴耳草紙』に至る説話、能と歌舞伎、さらに三遊亭円朝・泉鏡花・森鴎外・小泉八雲らの近代の作品に現れる幽霊をたどり、怨念の系譜として読み解く。第一章で幽霊の時・季節・姿・場・目的を論じ、終章で稲生屋敷の物怪や百鬼夜行など幽霊の周辺に及ぶ。