向島の船宿で開かれた百物語
どんな伝承か
森鷗外の『百物語』は、向島の川開きの日に催された江戸名残りの百物語を見物に行く話である。今紀文と呼ばれた飾磨屋という商人が興行主で、しとみ君と語り手の〈僕〉は柳橋から舟に乗り、木母寺のあたりを経て寺島へ渡り、会場の船宿に着く。〈僕〉の関心は怪談そのものより、こうした催しに人を呼ぶ男がどんな人物かにあった。予想に反して催主は沈鬱で、過ぎ去った栄華を傍観者のように眺めている。鷗外自身も終始傍観者であり、履き違えられた古下駄をつっかけて、その怪物屋敷をぶらりと出ていった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路)
『日本の幽霊たち――怨念の系譜』は、阿部正路が書きおろした日本文学の幽霊論で、刊行は日貿出版社が手がけた。『竹取物語』『源氏物語』『平家物語』などの物語、『日本霊異記』から『遠野物語』『聴耳草紙』に至る説話、能と歌舞伎、さらに三遊亭円朝・泉鏡花・森鴎外・小泉八雲らの近代の作品に現れる幽霊をたどり、怨念の系譜として読み解く。第一章で幽霊の時・季節・姿・場・目的を論じ、終章で稲生屋敷の物怪や百鬼夜行など幽霊の周辺に及ぶ。