仮装行列の将軍と戻ってきた白猫
どんな伝承か
昭和三十一年五月、松沢病院の恒例の運動会でのこと。呼びものの仮装行列の最後に将軍の馬車が続いた。羽根をつけた将軍帽に肩章と勲章の軍服、白髪の容貌が見物人の目を奪う。数百人の患者と見物人が歓呼と拍手で迎えるなか、馬車は進んだ。仮装を終えて病棟へ帰ると、将軍の愛猫が部屋にいない。呼びながら病棟じゅうを探し回っていると、しばらくして白猫が戻ってきた。将軍は猫を抱きしめ、行列で歓呼を浴びていたときよりも嬉しそうに笑ったという。同じ病院の患者が書き残した文である。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幻視する近代空間 ―迷信・病気・座敷牢、あるいは歴史の記憶(川村邦光・1989年(平成元年))
『幻視する近代空間 ―迷信・病気・座敷牢、あるいは歴史の記憶』は、川村邦光が一九八九年に著した近代日本の民衆の心性をめぐる論考である。明治の「血税一揆」の流言、トラホームと〈迷信〉、狐憑きと精神医学、「脳病」「神経病」、座敷牢と精神病者監護法、芦原将軍や出口なおの神がかり、祖先教と靖国の霊魂の管理を、新聞記事や医学書、調査報告から読み解く。はじめにの後に三部と終章「近代日本と霊魂の行方」を置き、あとがきで結ぶ。