打ち殺された大猫が憑いた女房
どんな伝承か
文化十年六月十九日のこと。江戸湯島、円満寺の前にあった煎餅屋へ、大きな猫が毎晩のように来ては食べ物を盗んでいった。腹を立てた亭主が罠を仕掛けて生け捕り、さんざんに打ち殺して首に縄をかけ、深夜、女房に命じて裏の桜馬場の芥捨場へ捨てさせた。気丈な女房は一人で運んで戻ってきたが、戸口に立った途端に声をあげて顔つきが変わり、爪を立てて夫に飛びかかった。近所の者を呼び集めてようやく手足を縛ったものの、女房は人の言葉を発せず猫の声で鳴き、器に顔を突っ込んで魚ばかりを欲しがったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年))
『動物界霊異誌』は、岡田建文(蒼溟)が昭和二年に著し、郷土研究社から出した動物怪異の記録集である。二十余年にわたって集めた体験や同志の報告から、動物にまつわる怪異の事例を選び、山陰地方を中心とする明治・大正の見聞と、近世の随筆に見える記事を収める。蝦蟇・猫・河童・狐・狸と貉・外道(人狐)・蛇などの動物ごとに、解説・事例・古人の記述の順に並べ、心霊の立場からの考察を加える。