草履を脱いだまま消えた寒戸の娘
どんな伝承か
『遠野物語』には神隠しの典型的な例が載せられている。松崎村の寒戸というところの民家で、若い娘が梨の樹の下に草履を脱ぎ置いたまま行方知れずになった。三十年あまり過ぎたある日、親類知音の人々がその家に集まっていたところへ、ひどく老いさらばえたその女が帰ってきた。どうやって帰ってきたのかと問うと、人々に逢いたかったから帰ったのだと答えた。それではまた行こうと言って、再び跡を留めず消え失せたという。著者は、神隠しには履物などを揃えて突然いなくなる、一度だけ姿を見せてまた消えるといった特徴があり、人間には見えない異界へ連れ去られるのではないかと述べている。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
王権の呪術的起源(ジェイムズ・G・フレイザー(著)/訳者名は原典に無し)
『王権の呪術的起源』は、ジェイムズ・G・フレイザーが一九〇五年にケンブリッジ大学トリニティ・カレッジで行った講演の本 The Magical Origin of Kings の全訳で、思索社から刊行された。ネミの森の祭司「森の王」の謎を手がかりに、未開社会の呪術師が公共の呪術師を経て王や人神へ成り上がる道筋を、各地の民族誌や古典を引いて説く。全九講に典拠の注と訳者あとがきを付け、訳者は『金枝篇』第一部からの抜粋だと述べる。