巻物を授けて那智山へ招いた白髪の老僧
どんな伝承か
十三歳の八月末、網元の東文蔵の家に奉公していた熊蔵は、仲間の小僧たちと眠っていた夜、自分を呼ぶ声を聞いた。生まれて初めての恐怖に震えながら目を凝らすと、闇の中に白髪の老僧がいた。老僧は、先師から伝わる秘密の行を授けるにふさわしい者を七年探してきたと語った。那智山に住み、木曽の山からの帰りに長島で不思議な少年の噂を聞き、しばらく様子をうかがっていたのだという。老僧は水行で身を清めて翌年三月一〇日に必ず那智山へ来いと繰り返し、巻物を一巻授けて、親にも言うなと念を押した。
原典より
老僧は幾度も「水行をして身を清め、来年の三月一〇日、必ず那智山に来れ」とくりかえした。—— 霊術家の饗宴(井村宏次・井村宏次・霊術研究・1983年(昭和58年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
霊術家の饗宴(井村宏次・井村宏次・霊術研究・1983年(昭和58年))
『霊術家の饗宴』は、井村宏次が一九八三年に著した近代日本の霊術家の歴史である。明治から昭和初めにかけて、気合術・催眠術・霊子術などで民衆の病や苦しみを救おうとした霊術家たちの運動を、当時の新聞記事や刊行物、関係者の家族への取材をもとにたどる。プロローグと六章、エピローグからなり、浜口熊嶽、桑原天然、福来友吉と千里眼事件、太霊道の田中守平を章ごとに取りあげ、霊術ブームと取締法による衰退までを描く。