赤羽根峠で侍を化かした駈け馬
どんな伝承か
昔、遠野から気仙へ越える赤羽根峠に悪い狐がいて、往来の人で化かされぬ者はなく、道中の者はひどく難儀した。遠野の侍が、畜生の分際で人を馬鹿にするのは悪いと言い、大刀を差し握飯を背負って出かけた。峠にさしかかり刀の柄に手をかけて歩いたが、風の音もせず草葉一つ動かず、何事もなく頂上まで登った。侍は狐など己の威勢に怖れて出ぬのだと笑い、石に腰かけて握飯を広げた。すると峠の下の気仙口の村の方で叫び声がして、馬が人に追われて駆け上って来た。馬止めの法をかけてやろうと思う間もなく、荒馬が押しかぶさるように来たので、侍は草原へ逃げ込んだ。落ちた握飯に食らいついた馬は小さくなって駆け去り、やはり狐であった。
原典より
昔、遠野から気仙へ越えて行く赤羽根峠に、悪い狐が居て、往来の人でこれに化されぬと謂ふ者はなかつた。—— 佐々木喜善全集 1(佐々木喜善・佐々木喜善全集・1986年(昭和61年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
佐々木喜善全集 1(佐々木喜善・佐々木喜善全集・1986年(昭和61年))
『佐々木喜善全集 1』は、佐々木喜善の著作を遠野市立博物館が編集・発行し、昭和六十一年に刊行した全集の第一巻である。岩手県の遠野・江刺・紫波・岩手などで聞き集めたザシキワラシの話、昔話、伝説を、村の古老や知友からの聞き書きと手紙による報告をもとに収める。「奥州のザシキワラシの話」「江刺郡昔話」「紫波郡昔話」「東奥異聞」「老媼夜譚」「聴耳草紙」に小篇を加えて並べ、巻末に遠野市教育長の跋と奥付を置く。