松原で追って来た死んだ妹の声
どんな伝承か
三太郎の妹オヨシは一里ほど離れた在郷へ嫁いでいたが、産の肥立ちが悪く長く患って死んだ。知らせに三太郎は取るものも取らず妹の縁家へ駆けつけ、葬式を済ませて夕方、ダンパラという所の松原まで来た。あたりは人の肌も分からぬほど暗かった。ふと後ろで女の泣き声がする。耳を澄ますと遠くかすかだが確かに、先ほど埋めた妹の声であった。狐だと思って後も見ずに家まで駆け戻ったが、声は後頭部に貼りついたようにどこまでも追って来た。家の者は酒に酔っていると言って取り合わず、風呂に入ると壁の外から兄々と泣く声がし、小指ほどの穴から細い青白い手が突き出て首筋に絡みついた。三太は叫んで飛び出し、巫女を頼んで呪ってもらった。
原典より
前の三太郎父様の妹のオヨシといふのが一里ばかり離れた在郷へ嫁に行って居た。—— 佐々木喜善全集 1(佐々木喜善・佐々木喜善全集・1986年(昭和61年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
佐々木喜善全集 1(佐々木喜善・佐々木喜善全集・1986年(昭和61年))
『佐々木喜善全集 1』は、佐々木喜善の著作を遠野市立博物館が編集・発行し、昭和六十一年に刊行した全集の第一巻である。岩手県の遠野・江刺・紫波・岩手などで聞き集めたザシキワラシの話、昔話、伝説を、村の古老や知友からの聞き書きと手紙による報告をもとに収める。「奥州のザシキワラシの話」「江刺郡昔話」「紫波郡昔話」「東奥異聞」「老媼夜譚」「聴耳草紙」に小篇を加えて並べ、巻末に遠野市教育長の跋と奥付を置く。