死の刻に鳴った押入の藤村詩集
どんな伝承か
著者は大学在学中の一年間、小石川のある寄宿寮にいた。十数人いた同寮生の一人が脚気を病んで帝大附属病院に入院した。ある土曜の午後に見舞うと、気分が大層よい、藤村詩集がしきりに読みたい、自室の押入にあるから届けてほしいという。翌日持って行くと約束した。翌朝の食卓で台所受持ちの老女が、夜中に隣で寝ていた女中に起こされ、病人の部屋の押入で鼠とはまるで違う、荷物を動かすような音がした、そのとき時計が二時を打ったのを意識して寝た、と語った。そこへ来客があり、病人が昨夜二時少し前に急に衝心で死んだと告げた。著者が走って押入を調べると、荷物の下積みの書物の中から藤村詩集が見つかった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
科学的教養(小泉丹・小泉丹・科学論・1948年(昭和23年))
『科学的教養』は、小泉丹が昭和二十三年に春秋社から刊行した、科学的なものの見方を説く評論である。精確さ・合理性・実証の面から科学的と非科学的の違いを論じ、河童の記録や呪いの効き目、『耳袋』の怪異談、狐憑き、幽霊・化物屋敷、人魂・鬼火・怪火を例に、日本人のものの考え方を検討する。昭和十七年に書いた前版を戦後に改稿したもので、序と起序に続く七章から成り、旧稿の終わりの二章を除いたと序に記す。