秋葉神社に立つ同姓同名の幽霊
どんな伝承か
大正九年の九月末、向島須崎町で金塚文哉という男が、恋のもつれから芸者だった女を殺し、その場で自ら命を絶った。同じ月の二十九日の夜更け、現場から一町ほど離れた秋葉神社の暗い境内を夜番が通ると、白い着物の痩せた男がぼんやり立っている。誰かと問うと、落ち着いた声で金塚文哉と名乗った。驚いた夜番が人を呼んでくると、男は静かに動き、青い火を一条残して消えた。噂は広まったが、実は近所に住む同姓同名の文筆家が散歩中に名乗ったもので、青火は投げ捨てた煙草の火だった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
科学的教養(小泉丹・小泉丹・科学論・昭和(戦中))
生物学者・小泉丹『科学的教養』(戦中刊)。国民の科学性とは科学知識の普及ではなく科学的態度であるとし、科学的・非科学的の境界を吟味したうえで、怪異談を科学的に検討する。