残念だと口をきいた寺の飼猫
どんな伝承か
寛政七年の春、江戸山伏町のある寺の庭へ来た鳩を飼猫が付け狙うので、和尚が声をかけて鳩を追い逃がしたところ、猫が『残念だ』と言った。和尚は大いに怒って猫を捕らえ、刃物を持ち、畜生の身で物を言うのは奇怪至極だ、年久しく飼われた恩を思わず化けるつもりか、化けるなら正直に申せ、申さねば突き殺すと責めた。その時猫が言うには、猫は十年余りも生きれば物が言え、それより十四、五年も生きれば神通を得て化けるが、多くの猫はそこまで生きない、狐と交わって生まれた猫は十年たたぬうちに物が言えるという。和尚が赦すと、辞儀をして出て行き、それきり寺へは戻らなかった。
原典より
寛政七年の春、江戸山伏町の某寺の庭へ来た鳩を飼猫がつけねらふので、和向が聲をかけて鳩を追逃がしたら、猫が『残念だ』と言つた。—— 動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年))
『動物界霊異誌』は、岡田建文(蒼溟)が昭和二年に著し、郷土研究社から出した動物怪異の記録集である。二十余年にわたって集めた体験や同志の報告から、動物にまつわる怪異の事例を選び、山陰地方を中心とする明治・大正の見聞と、近世の随筆に見える記事を収める。蝦蟇・猫・河童・狐・狸と貉・外道(人狐)・蛇などの動物ごとに、解説・事例・古人の記述の順に並べ、心霊の立場からの考察を加える。