僧に化けて勧化した古狸の筆跡
どんな伝承か
『兎園小説』の古狸の筆跡の条。書画をよくする古狸の話は多いが、筆者は昔鎌倉にいたころ、川崎の宿場に泊まり、問屋の家に伝わる狸の手になるという書画を見せられた。字の形は真・行・草のいずれとも違う奇妙なもので、いかにも狸の筆と思われた。問屋の話では、その狸は鎌倉あたりの僧の姿で現れ、付近を勧化して回っていたが、とうとう鶴見の生麦あたりで犬に食い殺されてしまったという。それほど古い話ではないと筆者は書き添えている。
原典より
問屋の話では、鎌倉辺の坊さんという姿でやってきて、そのあたりを勧化してあるいていたが、ついに鶴見生麦のあたりで、犬に食われて死んでしまったということだ。—— 井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編)
『井上円了 妖怪学講義』は、明治期に哲学館で講じられた井上円了の『妖怪学講義』から要所を選び、平野威馬雄が現代の文章に改めて編んだ抄録である。狐憑きや化物屋敷、怪火、幽霊、コックリなどを題材に、円了が古書から抜き出した記事、各地から寄せられた報告、円了自身の現地での調べを収める。原著の八部門のうち理学・心理学・宗教学・雑の四部門を章に立て、序で研究の経緯と分類を、結びで編者の見方を述べる。