海から薬師堂へ登る赤井岳の竜燈
どんな伝承か
磐城国磐前郡に、赤井岳あるいは水晶山と呼ばれる一つの霊山がある。東南に太平洋を望み、山頂には大同二年の開基と伝える薬師如来の堂があって信徒の参詣が絶えず、人々は「竜燈がこの山に登る」と語り伝えてきた。報告者の馬目徳太郎が実際に見たところによれば、毎夜十二時頃になると海中に白く烱々と輝く怪火が現れ、水面の数丈上にかかっては消え、また現れ、集まって一つになったかと思うと、ちりぢりに数十に分かれた。その火はやがて陸に近づき、夏井川に沿って山麓に達し、谷間をさかのぼって薬師堂の前の林中を往来し、時には堂内に入ることもあるという。土地では水晶の精気とも燐火ともいう。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編)
『井上円了 妖怪学講義』は、明治期に哲学館で講じられた井上円了の『妖怪学講義』から要所を選び、平野威馬雄が現代の文章に改めて編んだ抄録である。狐憑きや化物屋敷、怪火、幽霊、コックリなどを題材に、円了が古書から抜き出した記事、各地から寄せられた報告、円了自身の現地での調べを収める。原著の八部門のうち理学・心理学・宗教学・雑の四部門を章に立て、序で研究の経緯と分類を、結びで編者の見方を述べる。