母の顔が狐だと叫んだ子と消えた妻
どんな伝承か
下総の相馬郡赤法華村の農民孫右衛門から六代ほど前の先祖、同じく孫右衛門が江戸からの帰りに野原を通ると、若い女がたたずみ、行き暮れて困っているので連れて行ってほしいと頼んだ。家に泊めると働き者で、母親が気に入って嫁に迎えた。やがて男の子が生まれ、五年後にまた男の子が生まれた冬、女が炉端でまどろんでいると、上の子が母の顔が狐そっくりだと父を呼んだ。女は飛び起きて外へ逃げ去り、探すと小高い山の狐穴の口に、子どものおもちゃの茶釜と焼き物のきせる、書きかけの手紙が置かれていたという。
原典より
冬の子とて、幼子に添乳して、しばし炉辺でまどろんでいると、五歳の子が、あわただしく父親を呼び、「早く、早く、見てちょうだい、母ちゃんの顔が狐にそっくり・・・・・・」と言うので、…—— 井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編)
『井上円了 妖怪学講義』は、明治期に哲学館で講じられた井上円了の『妖怪学講義』から要所を選び、平野威馬雄が現代の文章に改めて編んだ抄録である。狐憑きや化物屋敷、怪火、幽霊、コックリなどを題材に、円了が古書から抜き出した記事、各地から寄せられた報告、円了自身の現地での調べを収める。原著の八部門のうち理学・心理学・宗教学・雑の四部門を章に立て、序で研究の経緯と分類を、結びで編者の見方を述べる。