おさん狐と見て女を斬った家僕
どんな伝承か
周防国岩国の藩士岡田某に仕えた家僕の秋山団十郎は、どんな怪物にも怯まない豪胆な男だった。ある夜、今津へ向かう途中、城山の一ツ橋のあたりで様子の怪しい女に行き会い、評判のおさん狐の化けたものと見てひそかに後をつけた。女が石橋を手をついて跳ねるように渡ったので刀を抜いて斬ったが、亡骸はどう見ても人間の女で、主人に告げて戻り確かめても変わらず、途方に暮れた。夜が明けて主人が一人で見に行くと、亡骸は年を経た狐になっていた。以後その辺りの怪しい出来事は絶え、このときの刀は家に伝わり、狐狸に憑かれた者にいただかせると正気に戻ったという。
原典より
そこでその主人が、ひとりで現場に行って、なおもよく調べてみようと、屍のそばに行ってよく見たら、屍は婦人ではなく、一匹の老狐だったので、団十郎もやっと本心に復した。—— 井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編)
『井上円了 妖怪学講義』は、明治期に哲学館で講じられた井上円了の『妖怪学講義』から要所を選び、平野威馬雄が現代の文章に改めて編んだ抄録である。狐憑きや化物屋敷、怪火、幽霊、コックリなどを題材に、円了が古書から抜き出した記事、各地から寄せられた報告、円了自身の現地での調べを収める。原著の八部門のうち理学・心理学・宗教学・雑の四部門を章に立て、序で研究の経緯と分類を、結びで編者の見方を述べる。