椀の下から火が燃える餓鬼道の絵師
どんな伝承か
『諸国怪談空穂猿』から引かれた話。昔、洛東に慶阿弥という扇絵の名手がいたが、ふとした病がもとで五、六日で亡くなった。ある夜ふけ、親しかった友の家の戸を叩く者があり、開けると死んだはずの慶阿弥が立っていた。招き入れて語り合い、湯漬けを出すと、友が三杯食べても慶阿弥は一杯も進まない。よく見ると椀の下から猛火が燃え上がっていた。慶阿弥は餓鬼道に落ちたと明かし、妻子に如法念仏で弔うよう伝えてほしいと頼んで消えた。妻子が怠らず追善すると、慶阿弥が再び現れ、おかげで安養の国に生まれたと告げて消え、以後二度と姿を見せなかったという。
原典より
そこで、よくよく見れば、慶阿弥の手にした椀の下から猛火が燃え上がり、その隙からそれをそーっと食べていたのである。—— 井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編)
『井上円了 妖怪学講義』は、明治期に哲学館で講じられた井上円了の『妖怪学講義』から要所を選び、平野威馬雄が現代の文章に改めて編んだ抄録である。狐憑きや化物屋敷、怪火、幽霊、コックリなどを題材に、円了が古書から抜き出した記事、各地から寄せられた報告、円了自身の現地での調べを収める。原著の八部門のうち理学・心理学・宗教学・雑の四部門を章に立て、序で研究の経緯と分類を、結びで編者の見方を述べる。