寝ている間に顔へ鍋炭を塗られる一家
どんな伝承か
筑前国那珂郡横手村大字無田というところに、夫婦と娘の三人暮らしの家があった。この家に怪事が百出して、どうにも手のつけようがなかった。夜中に一同が寝につき、翌朝になると、めいめいの顔に鍋炭がべっとり塗られており、竈の下には薪が入れられて炊飯の支度がしてあった。釜から飯を櫃に移しておくと、しばらくして櫃が宙に浮き上がり、再び畳の上に落ちてきたが、中には一粒の飯も残っていなかった。驚いた者が納戸から亭主を呼び、すぐ来て見てくれと言うので亭主が急いで行くと、何も見えなかった。そのほかにもさまざまな異変が続いた。円了は、その家の娘に怪しむべき点があるとみている。
原典より
夜中、一同寝に就き、翌朝になると、各々その顔に鍋炭がべっとりぬられており、…—— 井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編)
『井上円了 妖怪学講義』は、明治期に哲学館で講じられた井上円了の『妖怪学講義』から要所を選び、平野威馬雄が現代の文章に改めて編んだ抄録である。狐憑きや化物屋敷、怪火、幽霊、コックリなどを題材に、円了が古書から抜き出した記事、各地から寄せられた報告、円了自身の現地での調べを収める。原著の八部門のうち理学・心理学・宗教学・雑の四部門を章に立て、序で研究の経緯と分類を、結びで編者の見方を述べる。