分部山から塔世川を下る百の怪火
どんな伝承か
『諸国里人談』から円了が引いた怪火の話である。伊勢国安濃津の塔世の川上にある分部山から、小さな提灯ほどの火が五十も百も現れて四方へ飛び回り、やがて五、六尺ほどの一つの塊になって、水の流れよりも速く塔世川を下っていった。また塔世が浦には「鬼の塩屋の火」と呼ばれる火があり、その中には老婆の顔がはっきりと見えるという。この火が川上の火と行き交うように飛び回り、しばらく一つにまとまったのち再び分かれ、一方は沖へ、一方は川上へと去っていったとされる。
原典より
伊勢の国安濃津塔世の川上、分部山から小さい提灯ほどの火が五十も百も現われてきて、縦横に飛びまわり、後には五六尺ほど一かたまりになって、塔世川を水よりも速く、下って行った。—— 井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編)
『井上円了 妖怪学講義』は、明治期に哲学館で講じられた井上円了の『妖怪学講義』から要所を選び、平野威馬雄が現代の文章に改めて編んだ抄録である。狐憑きや化物屋敷、怪火、幽霊、コックリなどを題材に、円了が古書から抜き出した記事、各地から寄せられた報告、円了自身の現地での調べを収める。原著の八部門のうち理学・心理学・宗教学・雑の四部門を章に立て、序で研究の経緯と分類を、結びで編者の見方を述べる。