毎夜聞こえた新場の狸囃子
どんな伝承か
狸が腹を鼓のように打つという言い伝えは古く、連歌や狂歌にも詠まれてきた。著者はかつて江戸の新場に仮住まいしていたころ、夜が更けると一、二町ほど離れたあたりから、いかにも面白そうな太鼓の音が聞こえてくるのを不思議に思った。芝居町までは八町も離れていて鳴り物が届くはずがなく、市中で囃子を出すことも禁じられている。陰間茶屋の茶番狂言かとも考えたが、毎晩夜更けに続く。ある日、渓斎英泉のもとでこの話をすると、あれは狸囃子で、九鬼丹波守の屋敷で狸が囃しているのだ、屋敷の中で聞いてもやはり一、二町先から聞こえる、と答えたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・大正・昭和初期)
博物学者・日野巌の古典的妖怪研究『動物妖怪譚』の前半(總論〜多爾具久)。