志津野の伐採で消えた斧とぐひん餅
どんな伝承か
美濃武儀郡の志津野で、村続きの林を伐ったときのことであった。山というほどのところでもない松林の平山だったので、ぐひん餅にも及ぶまいと思い、何の祭もしないで伐りはじめた。ぐひん餅・ごへい餅とは串に刺した焼飯のようなもので、天狗祭の供え物である。ところが、みなが使っていた斧の頭がいつの間にかなくなり、道具までも紛失した。これはいけないとその日は急に仕事をやめ、あらためてぐひん餅をつくって詫びると、失せた道具がぼつぼつと出てきた。この地方でぐひん餅をつくるには決まった慣わしがあり、村中に触れを出して老若男女を集め、山へ登って製する。村の内で焼かないのは、匂いを嗅いで天狗が寄って来るからだという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
河童・天狗・妖怪――民俗随筆(武田静澄・武田静澄・民俗随筆・1956年(昭和31年))
『河童・天狗・妖怪――民俗随筆』は、武田静澄が昭和三十一年に著した民俗随筆である。天狗と神かくし、河童、座敷わらし、山の神と山の妖怪、狐狸とつきもの、水辺や海の亡霊、死霊と御霊などをめぐる伝承を、『今昔物語』などの古典の説話と各地の民俗の事例から集めて語る。短い見出しを立てた小文を連ねる形をとり、神かくしにあう心理や幻覚、お化けの心理にも触れて、妖怪を信じる心のはたらきを考える。