犬神持ちの一家が薩摩へ逃げた差出書
どんな伝承か
土佐にも、自ら憑きもの筋であると認めた記録がある。山内家の史料に収められたもので、寛文十二年三月十二日、幡多郡下ノ茅の百姓九郎右衛門の一家九人が薩摩国へ逃げた際、子の仁右衛門が役所へ出した差出書である。そこには、家は代々犬神持ちで、父が近年犬神をむやみに人に憑けたため世間に顔向けできないと常々嘆き、母もひどく苦にしていた、それで居たたまれず出奔したのであって、他人を恨む気持ちは少しもない、という趣旨が記されている。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の憑きもの――俗信は今も生きている(石塚尊俊・1959年(昭和34年))
『日本の憑きもの――俗信は今も生きている』は、石塚尊俊が昭和三十四年に著した研究書である。狐・犬神・蛇などの動物霊が人に憑くという俗信と、それを操るとされる家筋について、全国の伝承と近世以来の文書を集めて論じる。出雲・隠岐・豊後・土佐では筋の家の割合や縁組の偏りを調べ、憑きもの落としの行法や家の神とのつながりまでを七章で追っている。