中宮祠の山番を惑わす天狗倒し
どんな伝承か
日光の中宮祠に奉公していた男の話。足尾から煙の来ない昔の日光は獣の多い土地で、十一月の声を聞くころからさまざまなものを見聞きさせられた。男の寝起きする小屋は湖水に向かって窓が開いており、夜半に湖の向こうで大木が倒れたような音が轟く。夜が明けて行ってみると何一つ倒れていない。昔から俗にこれを天狗倒しと唱えた。月のよい夜には窓の外で大きな羽音がし、開けると大きな鳥がぱっと立って波打ち際に降りる。壁から鉄砲を取って撃ち、うまく当たったので翌朝拾いに行くと、羽根一片落ちてはいない。山に番をしていれば誰しもやられることで、怖いとも不思議とも思わず、結局は誰もが天狗の悪戯だと信じていたという。
原典より
夜半に、湖の向ふで、どーしんめりありありと大木が倒れたやうな音がする。—— 民俗怪異篇(磯清・磯清・民俗怪異) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
民俗怪異篇(磯清・磯清・民俗怪異)
『民俗怪異篇』は、磯清が著した民間の怪異をめぐる随筆集である。馬を襲う魔物ギバとその禁厭、阿波の首切れ馬「夜行さん」、姫路城の刑部姫や猪苗代城の亀姫などの城の怪、化け猫、灯火による占い、秩父三峰の狼の信仰と狼の怪、怪談を題材とする落語を取りあげ、各地の言い伝えや古い記録を引きながら語る。序に続いて「馬の災と馬の怪」「城の主」「猫」「灯の占」「狼の噂」「落語に存在する怪談」の六篇を置き、それぞれを小見出しの短い話に分ける。