若狭の下女が大和の池に浮かぶ
どんな伝承か
井原西鶴の『諸国ばなし』巻二にある話。若狭国小浜の越後屋伝助のもとで、年季を長く定めた下女として働いていたひさは、伝助の女房に嫉妬されて顔に火箸を突きつけられ、自ら命を絶った。亡骸はそのまま行方が分からなくなった。ところが正保元年、大和国の秋篠の里で百姓たちが集まって池を掘っていると、車を引くような音がして青い波が立ち、鳴門のような渦が二時あまりも続いた。翌朝、静まった水面に浮かんでいたのは、若狭の海に身を投げたあの若い女だった。若狭から大和へ通じる水の抜け道を通ってきたのだという。
原典より
若狭の国から大和の国への「水筋の抜け道」を通ってのことだった。—— にっぽん妖怪の謎(阿部正路・阿部正路・妖怪学・1992年(平成4年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
にっぽん妖怪の謎(阿部正路・阿部正路・妖怪学・1992年(平成4年))
『にっぽん妖怪の謎』は、阿部正路が平成四年に著した日本の妖怪論である。神の零落した姿としての妖怪という見方から、記紀や『今昔物語集』『太平記』、西鶴や『耳袋』、鳥山石燕の画図、近代文学や漫画までを引き、鬼・天狗・河童・狐・蛇・鵼などの出現と変遷を論じる。五章に分け、魔女・妖精・吸血鬼など外国の妖怪を扱う十篇のコラムを挟み、あとがきでは秋田の将軍野に生まれ柳田国男・折口信夫の門流につながる著者の来歴を語る。