文珠山で会った猿に似た怪物
どんな伝承か
幕末のある年の秋、織田氏の家来加藤某が文珠山へ登った。文珠山は一名五台山といい、有名な文珠堂が安置されている。寺域は三十一町五段四畝に及び、昔は老松老杉が鬱蒼と茂り、幾抱えもあるぶなが林立して、千古斧を入れたことのない森林であった。加藤某が森林の間を登り、何気なく峯から眺めると、行く手の笹がそよぐ。注意して見ると、身の丈六尺余り、髪は前に垂れ下がり、眼は鋭く猿に似て猿ではないものがいた。驚いて見守るうち、それは笹をこぎ分けて彼方へ去ってしまった。加藤某はほっとして山を下りたが、それが何であったのかは今もわからないという。怪談雨夜の伽による。
原典より
幕末、織田氏の家来加藤某という者が或る年の秋、文珠山へ登りました。—— 高畠町伝説集(山形県立高畠高等学校文芸班(編)・1957年(昭和32年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
高畠町伝説集(山形県立高畠高等学校文芸班(編)・1957年(昭和32年))
『高畠町伝説集』は、山形県立高畠高等学校文芸班が熊木成夫教諭の指導で編み、昭和三十二年に高畠町伝説集刊行会から発行した伝説集である。高畠町とその周辺に伝わる社寺の縁起、人物、怪異、動物、地名の由来などを、古老からの聞き書きと古記録から採り、内容の多くは郷土研究家安部名平次の蒐集による。神仏・人物・怪異・動物・什物・地物・地名・地誌の八篇に分け、町長の序と校長・安部名平次・武田好吉の文、編者の後記を付す。