弘法大師と荻野川の水
どんな伝承か
厚木を流れる相模川の支流荻野川には、源氏がわらと呼ばれる土手がある。ある秋の夕暮れ、一人の主婦がここで里芋を洗っていると、みすぼらしい乞食坊主が近づき、芋を一つ恵んでほしいと重ねて丁寧に頼んだ。気味悪く思っていた主婦はついに腹を立て、あんたにやる芋などないと怒鳴りつけた。坊主は悲しげな顔で手を合わせて経を唱え始め、すると荻野川の水は見る見る川底へ吸い込まれて一滴もなくなった。主婦は芋を洗えず呆然と見送るばかりだった。この坊主こそ諸国を巡っていた弘法大師で、それ以来、源氏がわらのあたりでは芋を洗う十月ごろから三月ごろまで川の水が消えるのだと伝える。
原典より
弘法大師と水無川(秦野市・中郡西秦野町) 八八尼将軍と化粧井戸(横浜市南区井土ヶ谷上町) 九六坂・谷・島についての伝説 一一五—— 神奈川の伝説(谷川平夫(文)/読売新聞社横浜支局 編・1967年(昭和42年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
神奈川の伝説(谷川平夫(文)/読売新聞社横浜支局 編・1967年(昭和42年))
『神奈川の伝説』は、読売新聞社横浜支局が一九六七年に編んだ神奈川県内の伝説集である。読売新聞神奈川県民版に昭和四十年九月から四十二年八月まで八十回連載された「神奈川の伝説」のうち六十五回分を収め、文は谷川平夫記者が書き、伝説の地を訪ねて住職や古老に聞いた話と現在の様子を添える。樹木・石・塚・水・坂や島・屋敷址・社寺・禁忌・地名の部に話を分け、大藤時彦の序文と巻末の解説・索引を付ける。