杉か松かを賭けて切腹した侍
どんな伝承か
争いの杉は江戸名木の一つに数えられ、田端の白鬚神社の境内に立っていたが、明治三十年、山手の鉄道敷設のためやむなく取り払われた。嵐で中ほどから折れて幹は半ば枯れ、根元は八、九人が座れるほどの空洞になっていたという。土地の者が惜しんで近くへ移したが、枯れたまま残った。昔、ある藩の侍たちがこの木を遠くから望んで杉だ松だと言い争い、命を賭けて負けた一人が木の下で切腹したので、この名が起こったと伝える。源頼朝の命で義経を追う畠山重忠が、杉と答える従者に一人だけ松と言って進軍を諫めたという説もある。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
江戸傳説(佐藤隆三)
『江戸傳説』は、佐藤隆三が著した江戸と東京の伝説集である。将門の首塚、番町皿屋敷、お玉ヶ池、置てけ堀、縁切榎、矢口渡など、市中と近郊の塚・池・坂・井戸・寺社にまつわる由来譚や、化け狐・猫又の怪異を、『江戸名所図会』『将門記』などの記録を引きつつ語る。目次に四十の項を番号順に並べ、口絵の図絵と目次番号に対応した伝説分布図を添え、巻末に資料参考書目を付す。