一戸だけ残った唐桑浜の宿の海嘯
どんな伝承か
唐桑浜の宿という部落では、四十戸足らずのうちただ一戸だけを残して、他はことごとくあの海嘯で潰れた。残ったという家でも床の上に四尺まで水が上がり、瞬く間にさっと引いて、浮くほどの物はすべて持って行かれた。その上、八つになる誠におとなしい男の子を一人亡くした。道の傍に店を出している婆さんの所へ泊まりに行っており、明日はどこかへお参りに行くのだから戻っているようにと迎えをやったが、自分はお参りしたくないと言って、ついに永遠に還ってこなかったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第2巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第2巻』は、柳田国男の紀行と旅の随筆を収めた著作集の一巻である。昭和三年一月の自序に続く「雪国の春」や菅江真澄の日記を読み解く文をはじめ、東北の村々の正月、火と炭、浜の暮らしの見聞、「秋風帖」「東国古道記」、昭和十五年十一月の自序を持つ「豆の葉と太陽」などの紀行を並べる。峠や古道、佐渡・五箇山・熊野などの土地を、住む人の暮らしと信仰から見ようとする文が多い。