海嘯の夜を焚火で明かした母と乳児
どんな伝承か
この話をした婦人は、その折十四歳であった。高潮の力に押し回され、中の間の柱と蚕棚との間に挟まって動けずにいるうちに水が引き、後の岡の上で父がしきりに名を呼ぶので登っていったという。その晩は家の薪を三百束ほども焚いた。海上からこの火の光を見つけて泳いで還った者も大分あった。母親が同じ中の間に乳呑児と一緒にいて助かったことは、その時はまるで知らなかったという。母はどんなことがあってもこの子は放すまいと左手で精一杯に抱え、乳房を含ませていたので、赤子は潮水を少しも飲まずに済んだ。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第2巻(柳田国男・定本柳田国男集)
柳田国男編『定本柳田国男集 第2巻』を全331話・伝説(1見出し=1話)単位で収録(緒言・序・名義・解説・和歌・注は除外/内包)。所在地(郡村区・社寺)を付して集成。