飛行機に驚いて駆ける牧馬の大群
どんな伝承か
空から越えて来ると、奥州の山野の昔がさぞ開きにくかったろうということが今でも深く感じられる。二戸郡の丘陵地は全体が緩い傾斜をなし、なお一帯が潤葉樹林に覆われて、ところどころに近ごろ植えられた杉林が浅緑の頂を並べている。名高い馬の産地だが、草原は里の周りや谷の低みにばかりあるためか、林の陰になって空からは広く見えない。飛行機に驚いた牧馬の大群が気狂いのようになって駆けて通ると、見ているうちに土埃の下に隠れてしまうのは、いかにも荒涼たる情景であった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第2巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第2巻』は、柳田国男の紀行と旅の随筆を収めた著作集の一巻である。昭和三年一月の自序に続く「雪国の春」や菅江真澄の日記を読み解く文をはじめ、東北の村々の正月、火と炭、浜の暮らしの見聞、「秋風帖」「東国古道記」、昭和十五年十一月の自序を持つ「豆の葉と太陽」などの紀行を並べる。峠や古道、佐渡・五箇山・熊野などの土地を、住む人の暮らしと信仰から見ようとする文が多い。