遠野の昔話を知る乙爺
どんな伝承か
土淵村山口に新田乙蔵という老人がいた。村の人は乙爺と呼ぶ。九十に近く、病んで今にも死のうとしていた。年ごろ遠野の昔の話をよく知っていて、誰かに話して聞かせておきたいと口癖のように言っていたが、あまり臭かったので立ち寄って聞こうとする人はいなかった。処々の館の主の伝記、家々の盛衰、昔からこの郷に行われた歌の数々をはじめとして、深山の伝説やその奥に住む人々の物語など、この老人が最もよく知っていた。乙爺は明治四十二年の夏の始めに亡くなったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第4巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第4巻』は、柳田国男の著作を集めた定本の一巻である。岩手県遠野の伝承を佐々木鏡石から聞いて書いた「遠野物語」、山に入った人や神隠しを論じた「山の人生」、河童・ひだる神・一つ目小僧・天狗などを扱い妖怪名彙を付す「妖怪談義」を収める。ほかに「山人考」「史料としての傳説」「比丘尼石の話」「山人外傳資料」「『イタカ』及び『サンカ』」「山民の生活」など、山人・漂泊民・妖怪をめぐる論考を併せる。