六角牛山の白鹿は白い石
どんな伝承か
同じ猟師が六角牛に入って白い鹿に逢った。白鹿は神だという言い伝えがあり、傷つけて殺しそこねれば必ず祟りがあろうと思案したが、名誉の猟人であるから世間の嘲りを厭い、思い切ってこれを撃った。手応えはあったのに鹿は少しも動かない。この時もひどく胸騒ぎがして、危急の時のために平生用意していた魔除けの黄金の丸に蓬を巻き付けて放ったが、鹿はなお動かない。あまり怪しいので近寄って見ると、よく鹿の形に似た白い石であった。数十年山中に暮らす者が石と鹿を見誤るはずもなく、まったく魔障の仕業だと思い、この時ばかりは猟を止めようと思ったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第4巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第4巻』は、柳田国男の著作を集めた定本の一巻である。岩手県遠野の伝承を佐々木鏡石から聞いて書いた「遠野物語」、山に入った人や神隠しを論じた「山の人生」、河童・ひだる神・一つ目小僧・天狗などを扱い妖怪名彙を付す「妖怪談義」を収める。ほかに「山人考」「史料としての傳説」「比丘尼石の話」「山人外傳資料」「『イタカ』及び『サンカ』」「山民の生活」など、山人・漂泊民・妖怪をめぐる論考を併せる。