早池峰の麓を登ってきた山男
どんな伝承か
昨年のことである。土淵村の里の子供十四五人で早池峯へ遊びに行き、思わず夕方近くなったので急いで山を下り、麓近くになった頃、丈の高い男が下から急ぎ足に登ってくるのに出会った。色は黒く眼はきらきらとして、肩には麻かと思われる古い浅葱色の風呂敷で小さな包みを負っていた。恐ろしかったが子供の一人がどこへ行くかと声を掛けると、小国さ行くと答えた。この路は小国へ越える方角ではないので立ち止まって不審に思ううち、行き過ぎたと思う間もなく早くも見えなくなった。山男よと口々に言って皆逃げ帰ったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第4巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第4巻』は、柳田国男の著作を集めた定本の一巻である。岩手県遠野の伝承を佐々木鏡石から聞いて書いた「遠野物語」、山に入った人や神隠しを論じた「山の人生」、河童・ひだる神・一つ目小僧・天狗などを扱い妖怪名彙を付す「妖怪談義」を収める。ほかに「山人考」「史料としての傳説」「比丘尼石の話」「山人外傳資料」「『イタカ』及び『サンカ』」「山民の生活」など、山人・漂泊民・妖怪をめぐる論考を併せる。