若い男女を引き込む蛇が渕の怨念
どんな伝承か
木曽の御嶽山の麓を流れる西野川には、流れのよどむ陰気な蛇が渕があり、向かいの崖下の洞穴に無数の蛇が棲む。昔、近くの村の美しい娘が隣村の若者に想いを寄せたが、若者には別の恋人があり、娘がひそかに恥じていた赤毛をあざけって退けた。その恋人の女は、渕で日に三度髪を洗えば黒くなるとからかい半分に教え、娘は冬まで通い続けた。だまされていたと知った娘は渕で髪を鎌で根元から切り、水に投げ入れる。すると泡とともに無数の蛇が浮かび、娘に巻きついて洞穴へ連れ去った。翌朝、若者と女も姿を消し、洞穴の口に二人の草履が片方ずつ残っていたという。
原典より
やがて見る間にひろがって水面に大きな波が立つや、水の中から無数の蛇が浮かび出てきて、娘のからだにすき間なくからまりついた。—— 日本の妖怪伝説(小笠好恵・1966年(昭和41年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の妖怪伝説(小笠好恵・1966年(昭和41年))
『日本の妖怪伝説』は、小笠好恵が各地に伝わる奇談・怪談を読み物にまとめた伝説集で、序は昭和四十一年五月付である。浅茅が原の一つ家、四谷怪談、九尾の狐、安達が原の黒塚、道成寺、鍋島の化け猫など、岩手から熊本までの四十五話を、伝えられた形をなるべく崩さずに書き直し、おおむね東から西へ並べる。雨月物語や小泉八雲など書物に拠る話のほか近年の体験談も混じり、一部の話の末にはゆかりの寺社へ行く「順路」を付ける。