金びょうぶに描いた一羽の雁
どんな伝承か
内藤家には金色に輝く立派な金屏風があった。あるとき内藤氏が、金屏風でも絵のないのは物足りないと絵師を呼び、あの屏風に何なりとも得意の絵を描けと命じた。絵師は武蔵野の原にススキを茂らせ、秋の空に月を描き、しばらく考えて一羽の雁を描いて差し出した。殿はそれを見て、雁は親子一族が列を正して飛ぶもので、孤立して秋の空を迷い飛ぶものではないと強く叱った。絵師は平伏したまま一言も答えられない。見かねた家老が静かに進み出て一筆の許しを乞い、初雁や また後からも後からも、と筆を入れた。すると殿の怒りは静まり、これは面白い、一羽の雁はその先駆の初雁かと褒め、以後この金屏風は珍重されたという。
原典より
場所 新宿一丁目 新宿御苑内 旧内藤邸時代 江戸時代(年代不詳)内藤家には、金色輝くりっぱな金びょうぶがあった。—— 新宿と伝説(新宿区教育委員会・1969年(昭和44年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
新宿と伝説(新宿区教育委員会・1969年(昭和44年))
『新宿と伝説』は、新宿区教育委員会が昭和四十四年に編んだ区内の伝説集である。カッパが出る坂、四谷怪談のお岩、矢来町の化け石、女幽霊が掘った清水など、牛込・四谷・戸塚大久保・新宿・淀橋柏木落合の各地に伝わる六十二の伝説を、江戸の地誌や随筆などから採って収める。第一章で伝説の分布と型を概説し、第二章では地域別に、各話へ場所・時代・出典・解説・参考書を添える。