別所の大樟に棲む花火名人の狸
どんな伝承か
美馬郡岩倉村の別所にある大樟は、周囲三十三尺にも及ぶこの地方で名高い大木で、根もとには楠藤兵衛という狸を祀る祠がある。この狸は人を化かすのは得手でないが、花火を揚げるのは大の名人だといわれた。二、三十年前までは盛んに花火を揚げ、村人は夜半のドンバチバチという音にたびたび驚かされた。近村の者が夜更けに大樟のあたりで花火が上がるのを見て、翌日尋ねると、そんなはずはないと言われ、やはり藤兵衛の火術だったかと話し合うことも多かった。火術とは打ち揚げ花火を指すこの地方の言葉である。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 11 狸・むじな(松谷みよ子・現代民話考・1995年(平成7年))
『現代民話考 11 狸・むじな』は、松谷みよ子が一九九五年(平成七年)に編んだ現代民話の資料集である。明治から現代までに各地で語られた狸・むじなの話を、聞き書き、読者の回答、郷土誌や民話集、新聞記事から集める。狸火、腹つづみ、音まね、いたずら、化かし、たたり、人助け、戦争にいった狸、今の暮しなど十二の部に分け、話例ごとに本文と類話の「分布」を添え、巻頭に序文と前文、巻末にあとがきを置く。