獅子頭を大蛇に見せた堤切りの計略
どんな伝承か
宝永元年の大洪水のとき、利根川は一〇メートル近く水嵩を増して殺到し、堤は決壊の寸前だった。どちらか一方の堤が切れれば自分の側は助かるので、両岸の村人は相手の堤が切れることを念じていた。その時、東京側の村民が、角をもち銀色に眼の輝く大蛇が三匹泳いで来ると叫んで逃げ散った。怪物の正体は、戸ヶ崎村の名主の機転で、家に古くから伝わる獅子頭を泳ぎの達者な若者三人に被らせて泳がせたものだった。若者たちは岸に着くと高笑いし、置き去りにされた鋤で半ば切れかかった堤を切り、大利根の水は葛西一帯に氾濫したという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
江戸動物民話物語(窪田明治)
『江戸動物民話物語』は、「郷土史・東京」の刊行会を主宰した窪田明治が、東京の郷土史を調べた材料から江戸の民話を選んでまとめた本である。狐や狸、猫、蛇が人を化かし、恩を返し、祟る話を中心に、本郷・王子・向島・麻布・三田など東京各地に伝わる話を収める。狐・狸・猫・蛇・不思議な生き物の五部に分け、一話ごとに舞台となった土地の史跡や寺社の由来、沿革の解説を添え、まえがきとあとがきを付す。