十二時過ぎに門を叩く音と汽車の響き
どんな伝承か
小山内薫が高輪の借家に住んでいたころ、彼は毎晩のように外出し、十二時を過ぎなければ帰らなかった。妻が一人で起きて留守居をしていると、十一時ごろまでは何事もないが、十二時を過ぎると必ず表の門を叩く音がする。出てみると誰もいない。そして汽車がごうっと音を立てて通る。もう汽車の通る時分ではないのに、である。この家ではほかに、雨の晩だけ土蔵の壁に人の顔が浮かぶ、貼った覚えのない「怪談乳房榎」の芝居番付が土蔵の扉に貼ってあるといった怪異が続き、一家はやがて麻布へ移った。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
あの世はあった―文豪たちは見た、ふるえた(三浦正雄・矢原秀人・2006年(平成18年))
『あの世はあった――文豪たちは見た!ふるえた!』は、三浦正雄と矢原秀人が二〇〇六年に著した、近代日本の作家や知識人の霊体験を紹介する読み物である。熱海の旅館で遠藤周作と三浦朱門が同時に遭った幽霊、佐藤愛子の心霊現象、菊池寛・宮沢賢治・小泉八雲・土井晩翠・新渡戸稲造・南方熊楠らの体験、夏目漱石の臨死体験を、本人や周囲の文章を引いて語る。一人一章の全十二章にまえがき・あとがきを添え、巻末に霊媒クランドン夫人の実験記録を付録として収める。