札を破れず声色で夫を誘う磯良の死霊
どんな伝承か
上田秋成が書いた『吉備津の釜』の磯良は、夫に裏切られて病み、床についたまま息絶える。死の間際、その生き霊は京へ逃げた相手の女お袖にとりついて殺してしまう。墓参りの帰りに死霊と出会った夫は陰陽師にすがり、体じゅうに呪文を書かれ、札を貼って四十二日の物忌みに入った。札に阻まれた磯良は四十一夜のあいだ家の周りを駆けめぐり、最後の晩、隣人の声をまねて夫を戸口の外へ誘い出す。悲鳴に人が駆けつけると、壁は血に染まり、屋根には男の髻がひっかかっていたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
怪談の科学――幻覚の心理を探る(中村希明・中村希明・精神医学)
『怪談の科学――幻覚の心理を探る』は、中村希明が精神医学の立場から著した怪談の解説書である。新聞記事の幽霊騒ぎや体験談、民話の化かされ話、「浅茅ヶ宿」やハムレット、『四谷怪談』などの古今東西の怪談を取り上げ、その多くを高速道路催眠現象、感覚遮断、飢えや寒冷、睡眠や薬物による幻覚として説明する。生理的幻覚から精神変調時の幻覚までを四章で分析し、第五章「怪談の論理」で恐怖と幻覚の仕組みと日本の幽霊の特色を論じる。