楽屋に響くパタパタという音
どんな伝承か
旅回りの一座が、松川事件のあった町から二つばかり先の駅の、二本松という町のNというオンボロで有名な劇場に出たときのことである。最終日の朝、四時頃だったか、二階の楽屋の障子をパタパタと叩く音がしたかと思うと、すぐにサアッサアッと畳を掃く音がした。背中を水が流れるような妖気がただよい、思わず皆で誰かと怒鳴ると音は消えた。出かけようとするとまたバタバタサアッという音がして、お化けよという叫びに一同が飛び出した。その町の大家の娘が二枚目役者に捨てられ、身重のまま彼のいた楽屋の部屋で自殺したのだという。男が一人でいると必ずこの音がするそうである。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談集 幽霊篇(今野圓輔・今野圓輔・日本怪談集・1969年(昭和44年))
『日本怪談集 幽霊篇』は、今野圓輔が昭和四十四年に編んだ幽霊体験談の集成である。新聞・雑誌・単行本や民俗の報告、編者自身の採集から、影や物音、人魂、生霊、死の知らせ、皿屋敷、戦死者の霊、船幽霊、タクシーに乗る幽霊など、日本各地の人びとが見聞きした怪異を、作家の創作を除き原文を尊重して再録する。十章に分けて各章の頭に編者の解説と注を置き、巻末に産女や子育て幽霊を論じた「幽霊外伝」と木原浩勝の解説を付す。