囃子とともに来た水口家の福の神
どんな伝承か
佐々木喜善が採った話に、綾野村(遠野)字大久保の水口という農家の伝えがある。七十年ばかり前の正月十四日の晩、ひどい吹雪であった。その夜、宮守村の日向という家のほうから、笛や太鼓で賑やかに囃したてながら出てくるものがあった。それが水口の家の前まで来ると、物音はぴたりとやんだ。世間では、あれが福の神でこの家に入ったのだと言い合ったという。以後、水口の土蔵にはクラワラシが住みつき、家計はたいそう豊かになったと伝わる。大正八年の採集である。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
怪談の世界(山田野理夫・1978年(昭和53年))
『怪談の世界』は、山田野理夫が昭和五十三年に著した怪談の研究随筆である。遠野での佐々木喜善と柳田国男の出会いから説き起こし、家・山・木・石・道・水・火に現れる妖怪、憑き物、鬼と天狗、生霊・死霊・幽霊の話を、著者の聞き書きや各地の民俗資料、古典・芝居から集め、沖縄の話で結ぶ。章立ては江馬務と柳田国男の妖怪分類を参考にしたもので、民俗学の資料と文学作品の両面から怪談をとらえようとしている。