廃坑の小屋で髪を梳く女
どんな伝承か
昭和十一年の真夏、語り手は盛岡市からツナギ温泉へ向かって一人で徒歩で出発した。近道をするつもりで山路に入り込み、山の廃坑に出てしまう。宵のうちに目的地へ着けそうもないので、以前は人夫小屋であったらしい一軒の建物に泊めてもらった。八畳ほどの一部屋で床につくと、掛蒲団が妙に重くなる。気味悪くなって上体を起こすと、足もとに蒼白い顔の痩せこけた女が立ち、髪を梳きながらこちらを見つめていた。「どなたッ」と叫ぶと女は音もなく消えた。翌朝、老夫婦は、かつてこの建物に売られてきた娘がいじめ抜かれて死んだのだと語った。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年))
『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』は、松谷みよ子が編んだ現代の民話の聞き書き集で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。一九七八年に発刊された『民話の手帖』を通じて全国から寄せられた回答を中心に、臨死体験、死の知らせ、寺へ来る死者、生まれかわりの話を収める。「あの世へ行った話」「死の話」「生まれかわり」の三章の冒頭に編者の論考を置き、細目ごとに所在地・話者・出典を添えた類話を並べる。