手のひらにトメの名を持つ子
どんな伝承か
明治三十年代ごろの人の話という。奥多摩に、世間から馬鹿トメなどと呼ばれる男がいた。生涯独り身で、兄か甥の家の居候のようになり、満足な仕事もできないので箒を作り、それを持って方々を掃除しては、いくらかの銭や品をもらって暮らしていた。五十を過ぎて急に亡くなったとき、次は普通の人間に生まれてこいと、親が手のひらにトメゾウともトメキチともつかぬ名を書いて土葬した。ほどなく近くの村で生まれた男の子の手のひらに、同じ字が読めたという。字はすぐに分からなくなったと伝わる。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年))
『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』は、松谷みよ子が編んだ現代の民話の聞き書き集で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。一九七八年に発刊された『民話の手帖』を通じて全国から寄せられた回答を中心に、臨死体験、死の知らせ、寺へ来る死者、生まれかわりの話を収める。「あの世へ行った話」「死の話」「生まれかわり」の三章の冒頭に編者の論考を置き、細目ごとに所在地・話者・出典を添えた類話を並べる。