下馬
どんな伝承か
戦後、世田谷にあった駒沢練兵場の兵舎は、そのまま都営住宅として使われていた。昭和二十二、三年ごろのこと、兵舎から少し離れた所に屋根の付いた大きな水飲み場があり、蛇口が左右に二十ほど並ぶ水道が四本連なって、そのあいだに木の蓋をかぶせた井戸があった。そのうちの一つだけは全く使えないようにしてあった。年上の子どもたちからは、兵隊さんが飛びこんで死んだ井戸で、夜になるとうめき声が聞こえると聞かされた。夜は裸電球がひとつ灯るきりで、子ども心に怖くて水を飲みにも行けなかったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸)
『現代民話考 ― 軍隊』は、松谷みよ子が編んだ、軍隊と戦争をめぐる現代の民話の集成である。日本民話の会の雑誌『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きによって寄せられた話をもとに、十五年戦争を中心に徴兵検査から新兵のしごき、戦地、虐殺や飢え、敗戦、収容所、戦犯、軍隊生活の怪談までを収める。巻頭に序文「明日の民話のために」と論考「軍隊考」を置き、十三の部に分けた各話の末に話者と回答者の名と在住地を記す。