板で×印を打たれた兵舎の便所
どんな伝承か
旧陸軍の駒沢練兵場の跡が、兵舎のまま都営住宅に転用された昭和二十二、三年ごろの話。旧兵舎から二十メートルほど離れた場所に軍隊の便所が残っていた。一棟の中で北側が兵隊用、南側が将校用に分かれ、合わせて三十ばかりの便所があった。そのうち三つ四つの戸には、いつからか大きな板が×印に打ちつけてあった。中で兵隊が首を吊ったと聞かされ、端から端まで通る剥き出しの棟木に紐を掛けたのだと言われると恐ろしく、隣の便所にも入れず、子どもたちはよく外の草原で用を足したという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸)
『現代民話考 ― 軍隊』は、松谷みよ子が編んだ、軍隊と戦争をめぐる現代の民話の集成である。日本民話の会の雑誌『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きによって寄せられた話をもとに、十五年戦争を中心に徴兵検査から新兵のしごき、戦地、虐殺や飢え、敗戦、収容所、戦犯、軍隊生活の怪談までを収める。巻頭に序文「明日の民話のために」と論考「軍隊考」を置き、十三の部に分けた各話の末に話者と回答者の名と在住地を記す。