蚊帳の中の寅松を見てけいを折檻した熊
どんな伝承か
熊はけいの家に入り浸って若い男を近づけまいとしたが、熊の目がなくなると若い男たちが寄ってきた。けいより年下の寅松がせっせと通ってくるのは、年上の女が誘っているからだと熊は妬み、家では寅松を養子にするつもりだという噂まで立った。熊は女の家のまわりに忍んで見張るようになり、六月二十五日の夜、格子越しにのぞくと、蚊帳の中に女と若い男がいた。熊は雨戸を開けて飛び込み、逃げる寅松を後でやっつけると見逃して、女を殴りつけ足蹴にした。殺せと泣きわめく女と、起きてきた祖父母を前に熊はようやく手を止め、すまなかったと詫びて帰っていった。
原典より
年下の男が年上の女の許へせつせと来るのは年上の女の誘ひがなくてはならなかった。—— 奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集)
『奇談全集 現代篇』は、田中貢太郎が幕末から大正にかけての事件や奇談を読み物に仕立てた作品集である。明治十一年に相模の真土村で起きた松木騒動、大正十五年に千葉の久賀村一帯で起きた鬼熊の事件、香取郡の連続殺人、伊賀上野の破獄、京都の天誅などを、記録や関係者の話をもとに描き、松木騒動には筆者が大正六年に現地を訪ねた補遺を付す。播磨屋橋遺聞のように、筆者自身が創作と断る話も含む。