種雄の家に火を放ち消防組を倒した熊
どんな伝承か
寅松の父親からマッチを奪った熊は、来た道を引き返して菅澤種雄の家に着くなり火を放った。草葺きの農家はたちまち燃え上がり、近所の家々が騒ぎだした。門口に立ちはだかった熊の姿は、炎に照らされて地獄絵の羅刹そのものだったという。熊は、この火を消してみろ、承知しないぞとわめき、高津原の消防組の菅澤直吉と菅澤栄助の二人が構わず火を消そうとすると、刃物で二人を倒してしまった。消防組は手出しができず、種雄は駐在所へ駆けつけた。半鐘が谷あいの部落から部落へすさまじく鳴り響くなか、家はすっかり火に包まれた。
原典より
草葺の農家はみるみる火になつて燃えあがった。—— 奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集)
『奇談全集 現代篇』は、田中貢太郎が幕末から大正にかけての事件や奇談を読み物に仕立てた作品集である。明治十一年に相模の真土村で起きた松木騒動、大正十五年に千葉の久賀村一帯で起きた鬼熊の事件、香取郡の連続殺人、伊賀上野の破獄、京都の天誅などを、記録や関係者の話をもとに描き、松木騒動には筆者が大正六年に現地を訪ねた補遺を付す。播磨屋橋遺聞のように、筆者自身が創作と断る話も含む。