新里の永島方から盗まれた日本刀
どんな伝承か
石毛事件が一段落し、警察が都倉方と寺島方を襲った黒い筒袖の外套の賊の捜査に熱中していた八月九日の夜、山倉村新里の物品販売業永島吉五郎方へ、家の西側の雨戸を開けて忍び込む者があった。賊は家人が置いていた護身用の刃渡り二尺ほどの日本刀を盗み出して去り、同家は翌朝それを警察へ届け出た。その翌々日の夜には、山倉村鷲山の木内みや方の裏手の雨戸を突き貫いて鍵を外そうとし、外れないので炊事場の戸を破って手を差し込み、まんまと侵入した。黒い外套を着て面を包んだ小柄な男で、片手に懐中電燈、片手に日本刀を閃かせ、母子から五円九十銭を奪って去った。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集)
『奇談全集 現代篇』は、田中貢太郎が幕末から大正にかけての事件や奇談を読み物に仕立てた作品集である。明治十一年に相模の真土村で起きた松木騒動、大正十五年に千葉の久賀村一帯で起きた鬼熊の事件、香取郡の連続殺人、伊賀上野の破獄、京都の天誅などを、記録や関係者の話をもとに描き、松木騒動には筆者が大正六年に現地を訪ねた補遺を付す。播磨屋橋遺聞のように、筆者自身が創作と断る話も含む。