印形の偽名から辿られた背の低い男
どんな伝承か
高橋母子の枕に残された高木の印形を手がかりに警察が調べると、その印形は佐原町関戸の印判屋で彫られたものとすぐに分かった。印判屋によれば、十一月二十一日の午後、二十六、七の背の低い男が香取町下が野の高木と名乗って注文したので、その場で彫って渡したという。下が野には同じ名の者が実際にいたため、警察はたやすく引き立てたが、本人はきっぱりと否認した。うろ覚えの印判屋は、警官の誘いかけるような言葉に乗ってあの男だったと言い出した。筆者はこの証拠を、あまりに芝居がかった幼稚なものだと評している。
原典より
警察は何の苦もなく高だ碁を したが、 は一言の下に犯罪を否認した。—— 奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集)
『奇談全集 現代篇』は、田中貢太郎が幕末から大正にかけての事件や奇談を読み物に仕立てた作品集である。明治十一年に相模の真土村で起きた松木騒動、大正十五年に千葉の久賀村一帯で起きた鬼熊の事件、香取郡の連続殺人、伊賀上野の破獄、京都の天誅などを、記録や関係者の話をもとに描き、松木騒動には筆者が大正六年に現地を訪ねた補遺を付す。播磨屋橋遺聞のように、筆者自身が創作と断る話も含む。