絞罪から蘇って水を求めた長三郎
どんな伝承か
牢を破った長三郎は家に戻ったが、女房と母親に取りすがられて振り切れず、踏み込んだ捕手に引き立てられた。重罪の上の牢破りとして間もなく絞罪となり、亡骸は非人の手で心念寺の墓地へ運ばれ、申し訳ばかりの土をかけて埋められた。その寒い日の夜、寺の台所の雨戸をがさがさと撫で回す者があり、老住職が誰かと問うと、廣瀬長三郎じゃ、水を一杯くだされと声がした。幽霊だと震え上がった住職は非人小屋へ駆け込み、六尺棒を持った非人が雨戸を開けると、白装束の者が這っていた。非人はいきなり打ち殺したが、それは息を吹き返した長三郎だった。後に住職は、逃がしてやれなかったことを恥じたという。
原典より
それは長三郎が呼唆を吹きかへしてだを求めにぽたところであつた。—— 奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集)
『奇談全集 現代篇』は、田中貢太郎が幕末から大正にかけての事件や奇談を読み物に仕立てた作品集である。明治十一年に相模の真土村で起きた松木騒動、大正十五年に千葉の久賀村一帯で起きた鬼熊の事件、香取郡の連続殺人、伊賀上野の破獄、京都の天誅などを、記録や関係者の話をもとに描き、松木騒動には筆者が大正六年に現地を訪ねた補遺を付す。播磨屋橋遺聞のように、筆者自身が創作と断る話も含む。